関西大学図書館電子展示室:八代集の世界 KANSAI UNIVERSITY
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ご挨拶
八代集の世界−古今・新古今を中心に−
 今年、平成17年(2005)は、『古今和歌集』が出来てから1100年、『新古今和歌集』が出来てから800年、という記念すべき年にあたる。この文学史上の節目の年にあたって、全国の博物館・美術館・大学図書館など、関係諸機関においては、さまざまな記念行事が催され、また、出版社界からは、数多くの記念出版物が刊行されると聞く。そこで、関西大学図書館も、これら世の動きに呼応して、インターネット上の電子展示室にて、八代集の展示を行うことにした。
 勅撰和歌集は、室町時代の初めまで続々と作られ、全部で21を数えるが、『古今集』から『新古今集』までは、これを八代集といって、後世の歌人たちから特別に尊重された。我々は、この八代集の歌を味読することによって、あの華やかで、かつ繊細な王朝和歌の世界に参入することができるのである。
 ところで、こうした王朝の和歌作品を、往古の人々は、いったいどのような形で享受していたのであろうか。一般に、江戸時代以前には、『伊勢物語』でも『源氏物語』でも、文学作品というものは印刷されることがなく、すべて手で書き写されていたのである。こうした手書きにされた本のことを写本というが、ここで注意しなければならないのは、平安や鎌倉時代の人々は、ただ単に元の本を正確に写すというだけでは満足せず、1巻の書物、1冊の本の中に、王朝のみやびの世界を具現すべく、美しい料紙に美しい文字で書くことに大いに腐心した、ということである。そのため、美術的にもたいそう価値の高い本が数多く作られることになったのだが、室町の終わりごろから江戸にかけて、古人の筆跡を鑑賞する風が起きると、不幸にも、そうした美しい本は、愛好家の求めに応じて、1枚1枚の紙片に分割されることになってしまったのである。こうして生まれたのが古筆切、すなわち古写本の断簡である。かつて江戸時代以前に書き写され、そのまま完全な姿を保って現在に至っている本も、けっして少なくはなかろうが、その何十倍、何百倍もの本が、書の鑑賞を目的に切られてしまったところに、かえって平安、鎌倉時代の写本というものの持つ特質が示されているといえよう。
 「八代集の世界」と題する今回の展示では、王朝400年の和歌の歴史を、『古今集』から『新古今集』に至る8つの勅撰集の古写本や古筆切によって、ほぼ概観できるようにしたが、展示品の書写年代も、平安・鎌倉・南北朝・室町・江戸と、様々な時代のものを選び出し、併せて時代による書風の変遷といったものも鑑賞していただけるように心掛けた。意のあるところをお汲みとりいただければ、幸いである。
 また、新古今集に関する資料のうち、「北山切新古今和歌集」は所蔵する資料の全ページを公開させていただくこととした。