関西大学図書室 電子展示室 伊勢物語 KANSAI UNIVERSITY
伊勢物語(慶長刊) 上巻のページへ 下巻のページへ 解説のページへ
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 川舟による水運開発で知られた角倉了意の子、角倉素庵によって、慶長13年(1608)以降、「嵯峨本」と呼ばれる一連の豪華な版本が出版されました。「嵯峨本」は「角倉本」とも呼ばれ、また本阿弥光悦が協力したとされることから「光悦本」とも呼ばれますが、謡本や『徒然草』、『古今集』など、その種類は多岐にわたっています。その「嵯峨本」の中でも、最初に刊行されたのが、この『伊勢物語』でした。
 「嵯峨本伊勢物語」の本文は木活字を用いて印刷されましたが、木製の活字は欠けやすく、一度に少量の部数しか印刷できませんでした。また、印刷後は活字をばらばらにして再利用するため、増刷する時はもう一度最初から活字を組み直す必要がありました。木の活字は形がまちまちだったので、同じ版をもう一度作ることは不可能でした。そのような事情から、「嵯峨本伊勢物語」には、たくさんの種類の版があることが知られています。
 「嵯峨本」の料紙は、一枚ずつ色を変えたり、全面に雲母(きら)を引いたり、下絵を描いたりした豪華なものですが、これらの「嵯峨本」は、売られたのではなく、身分の高い人たちに贈呈されたと考えられています。「嵯峨本」の出版は、すぐれた文化人でもあった実業家、角倉素案によっておこなわれた、文化的な社会貢献の事業だったのです。
 「嵯峨本伊勢物語」には、上下2巻あわせて49枚の挿絵が含まれています。その図柄は、室町時代以来の絵巻物や絵入り本の系統を引いていますが、大変すぐれたできばえで、江戸時代になって次々と刊行され続けた『伊勢物語』絵入り版本に、長い間、大きな影響を与え続けました。
 今回展示するのは「嵯峨本伊勢物語」そのものではなく、「嵯峨本」の刊行が終わってまもなく、その「嵯峨本伊勢物語」の各ページを、そのまま、古活字ではなく版木に彫って再現した覆刻版です。「嵯峨本」の人気が高かったので、その需要に答えるために作られた一種の海賊版ですが、この本は、さらに付加価値を付けるために、手書きで彩色が加えられています。
 
 
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